夜明けのブルーモーメント、谷あいに漂う朝霧、夕陽が川面を金色に染める瞬間――。列車はわずか数秒でフレームを横切ります。その刹那を逃すまいとファインダーを覗く鼓動こそ、鉄道写真の醍醐味。キャンピングカーで巡れば、光を追って自由に移動し、納得のいくまでシャッターを切り、撮影後は絶景のそばで一息つく贅沢が待っています。今回は岐阜・愛知・三重・滋賀の6路線を舞台に、「鉄道そのものの魅力」を絡めた撮影スポットをコラム仕立てでご案内します。
- キャンピングカーで撮り鉄旅する8大メリット
- 長良川鉄道・樽見鉄道・名鉄(犬山線・広見線)など6路線の絶景撮影スポット
- 撮影ギア&セッティング強化:必携機材・アプリ・テクニック
- マナー・安全の鉄則10カ条と“五感で写す”撮影心得
1. キャンピングカー撮影旅【8大メリット】
No. | メリット | 内容 |
---|---|---|
1 | 時間完全自由 | 夜明け前3時到着→仮眠→5時ブルーアワー撮影→朝食→二度寝、が可能。 |
2 | 暗室&PC環境 | ベッド脇にポータブル電源+モニターを積めばRAW現像→SNS発信まで車内完結。 |
3 | 乾燥室 | 結露したカメラ・レインウェアをFFヒーターで乾燥、翌朝も快適。 |
4 | 大三元レンズ常備 | 重量級レンズ、ドローン、三脚、脚立まで出し入れゼロ。盗難リスクも最小。 |
5 | 全天候シェルター | 豪雨や猛暑でもエンジンOFFで快適待機。外が晴れれば10秒で撮影ポイントへ。 |
6 | 映り込みコントロール | 車体のホワイトボディをレフ板代わりに使い、ポトレやクルマ+列車コラボも◎。 |
7 | 地域経済貢献を両立 | 道の駅・温泉・地元食堂に立ち寄りやすく、マイクロツーリズムの担い手に。 |
8 | 星景&ホタルと同泊 | 撮り終えた直後の夜空・蛍・朝霧をそのまま撮影 |
■長良川鉄道 ―― 清流がつくる“水鏡”ステージ
清流長良川とエメラルドグリーンの車体が響き合う長良川鉄道の路線は、川面に列車が映り込む“リフレクション”が名物。美並苅安~赤池の鉄橋下流は、風のない早朝ほど鏡面率が高まり、一枚で上下2編成を収めたかのような幻想ショットに。郡上八幡城下町の石畳や吉田川の水音も、シャッターを切る背中をそっと後押ししてくれる。

立ち寄りMEMO
- RV泊:道の駅白鳥(24h・静穏)
- 郡上おどり資料館で夏の踊りに思いを馳せつつ、城のライトアップを長秒露光で。
■樽見鉄道 ―― “淡墨桜”と渓谷を染めるパステルピンク
日本三大巨桜「淡墨桜」を擁するローカル線の樽見鉄道。木知原の桜並木、日当駅のトンネル&鉄橋、そして終点樽見駅から徒歩15分の淡墨公園――桜ダイヤに合わせて走る1両ディーゼルは、どの位置から狙っても絵になる。満開を過ぎて花が淡墨色へ変わるとき、列車の赤がいっそう引き立つのはここだけのドラマ。

立ち寄りMEMO
- 根尾川温泉望川湯で花冷えした体を温め、夜は桜ライトアップ+星の軌跡を合成。
■名鉄(犬山線・広見線) ―― 赤い特急、木曽川を駆ける
都市近郊を高速で走る名鉄特急と、犬山の木曽川橋梁・御嵩口の田園築堤という“ローカルな舞台”のコントラストが魅力の名鉄犬山線。流し撮りで赤いラインを引くも良し、夕陽シルエットで城とコラボさせるも良し。時速120km/hの轟音がファインダー越しに心拍を揺さぶる。

立ち寄りMEMO
- 犬山城下町で味噌田楽ランチ→城天守から撮影地を俯瞰。
- RVパーク犬山中央は夜間も街明かりが少なく星景◎。
■レールマウンテンバイク ガッタンゴー ―
― 廃線がくれる“自転車流し”の快感
旧神岡鉄道のレール上をペダルで進む新感覚のレールマウンテンバイク ガッタンゴー。渓谷コースの70m俯瞰橋梁では、セルフ流し撮りという珍技も可能。レールが奏でる「ガッタン、ゴットン」という響きが、鉄道のリズムを身体感覚に変える体験はここだけ。

立ち寄りMEMO
- 数河高原キャンプ場に乗り入れ、廃線跡と満天の星を組み合わせた長秒撮影。
- 奥飛騨の地ビールを車内キッチンでサーブ、撮影談義に花を咲かせて。
■信楽高原鐵道 ―― 陶芸の里を繋ぐ“神社トンネル列車”
日雲神社を貫く線路、遮断機のない踏切、そして吊橋の真下を潜る列車――。信楽焼の狸が見守る高原路線は、文化と鉄道が交錯するフォトフィールドだ。新緑や霧雨がかかると、列車のヘッドライトが森を柔らかく照らし、露出差が美しい階調を生む。

立ち寄りMEMO
- 窯元散策路でカフェ&陶芸体験。信楽焼マグでコーヒーを淹れ、車内を“移動ギャラリー”に。
- 保良の宮橋は列車通過後に吊橋スチル&ドローン俯瞰の二段構えがおすすめ。
■三岐鉄道(三岐線・北勢線) ―― 貨物列車とナローゲージの二重奏
黄色い電機が牽く貨物列車、762mmナローの“ガタンゴトン”――同じ沿線で2つの個性を楽しめる珍しい路線の三岐鉄道。宇賀川橋梁の貨物列車は朝陽順光、水鏡が狙える丹生川カーブは午後光がベスト。めがね橋ではナロー車両+築堤を広角で配置し、鈴鹿山脈をバックに。

立ち寄りMEMO
- 阿下喜温泉で夕方の貨物を待ち構え。6月上旬は員弁川の蛍+列車の多重露光に挑戦。
- 道の駅いなべは芝生サイト併設、伊勢茶ジェラートが絶品ですわ。
Q1. キャンピングカーで撮り鉄旅をするメリットは何ですか?
A1. 早朝の水鏡や朝霧を狙う自由移動、車内でのRAW現像、機材乾燥、風雨回避など8大メリットがあります。夜明け前からベストポジションで撮影し、絶景そばでゆったり休憩可能です。
Q2. 中部地方のおすすめ撮影スポットはどこですか?
A2. 長良川鉄道の「美並苅安~赤池」水鏡、樽見鉄道の淡墨桜×渓谷、名鉄犬山線・広見線の木曽川橋梁、レールマウンテンバイク ガッタンゴー廃線跡流し、信楽高原鐵道の日雲神社トンネル、三岐鉄道の貨物×ナローゲージが鉄板です。
Q3. 撮影ギア&セッティングで押さえるべきポイントは?
A3. 広角〜望遠レンズ、三脚二刀流、ドローン+NDフィルター、USB充電LEDバー、ロープ&一脚など必携。Sun SurveyorやWindyアプリで光や朝霧をシミュレートし、RAWブラケット/バルブ長秒でダイナミックショットを狙いましょう。
Q4. 撮影時のマナーと安全で注意すべき鉄則は?
A4. 線路立入禁止・私有地許可・フラッシュ禁止・ゴミ持ち帰り・アイドリング禁止など10カ条を厳守。地域住民や他の撮影者へ配慮し、ドローンは15分以内、静かに撮影しましょう。
2. 撮影ギア & セッティング徹底強化
2-1 必携ハードウェア
- ボディ2台体制:広角+望遠を瞬時に持ち替え。サブ機は高感度APS-Cで流し撮り対応。
- レンズ拡張:広角ズーム (14-30mm)/標準 (24-70mm F2.8)/望遠 (100-400mm)/単焦点 (35mm F1.4) を積載。
- 三脚二刀流:
- カーボン中型(動画・長秒)
- ミニ三脚 or 一脚(狭小ホーム・吊橋上)
- ドローン(249g級)+NDセット:航空法遵守、目視外禁止エリアを事前確認。
- 照明:USB充電LEDバー×2本。車内が暗室・簡易ライトボックスに早変わり。
- ロープ&脚立:高低差を稼ぎ、草被りを解消。ロープは機材固定兼レスキューにも。
2-2 ソフトウェア&アプリ
目的 | アプリ | 使い方 |
---|---|---|
太陽角度 | Sun Surveyor | 撮影地でARをかざし、列車通過時の逆光・順光をシミュレーション。 |
雲量&雨雲 | Windy / SCW | 1時間粒度の雲量トラック。朝霧・霧雨・雪の出現を読み切る。 |
星景 | Stellarium | 橋梁シルエット×天の川、蛍光灯列車と夏の大三角の位置を確認。 |
時刻表 | JR/私鉄公式+鉄道Now | 回送・臨時便・貨物列車の通過時刻をプッシュ通知。 |
2-3 テクニック増量版
- 置きピン+背面AF-ON:S字やトンネル飛び出しは“置きピン”+連写で歩留まり向上。
- 露出ディファレンシャル:RAW現像前提でハイライト-1EV、シャドー+0.7EVを意識したブラケット撮影。
- バルブ長秒:夜行列車+星軌道はF4・ISO400・15分。モバイルバッテリー給電でセンサー過熱を回避。
- HDRスマホ併用:スマホのHDRオフショットをガイド絵にし、Lightroomでレイヤー比較。
- 動画+スチル同時:外部レコーダへ4K60p、片手シャッターで決定的瞬間を静止画保存。
マナー・安全【鉄則10カ条】
- 線路・鉄橋・トンネル立入禁止 ― 例外は存在しません。
- 私有地は一声必須 ― 地主さんの「好きに撮ってって」が最高の許可証。
- ライト・ストロボOFF ― 夜間は運転士の暗順応を妨げない配慮を。
- ゴミは3倍持ち帰り ― 落ちていた空き缶も回収すれば次の撮影者が笑顔。
- 駐車は道の駅・公営P ― 路上駐車は即通報対象、RVパークを活用。
- アイドリング禁止 ― 静まり返った谷あいでエンジン音は敵。
- ドローン1フライト15分 ― 野鳥や住民への負荷を最小に。
- 譲り合い一礼 ― 三脚ラインは低い人優先、高い脚立は最後尾。
- 盗撮厳禁 ― 人物が入る場合は必ず声掛け&NGなら即削除。
- 地域経済へお礼消費 ― 食事・温泉・お土産で撮らせてもらった土地に感謝。
光・音・匂い…五感で写す“ローカル線シンフォニー”
ローカル線は、列車の走行音、川のせせらぎ、木の匂い、そして地元の人々の生活が溶け合う舞台。キャンピングカーという“動く拠点”を得れば、時間にも場所にも縛られず、その舞台に深く入り込めます。夜明け前の準備、撮れ高ゼロの焦燥、そして会心の一枚を得たときの高揚――そのすべてが鉄道写真の醍醐味。